少年事件の処分
第1 少年事件の処分
「高校生の息子が逮捕されてしまったのだが,少年事件ではどのような処分が下されることになるのだろうか」
「少年院に行くことになったら,何年くらいそこで生活することになるのだろうか」
現在,このような不安を抱えている方もいらっしゃると思います。
ここでは、少年事件の処分にはどのような種類があるのか、どういったときにそのような処分になるのかなど少年事件の処分に関する疑問点を解消していきます。
第2 少年事件の処分の種類
1 審判不開始
審判不開始には、形式的審判不開始と実体的審判不開始があります。 形式的審判不開始は審判に付することが出来ない場合のことをいい、具体的には審判条件の不存在や非行事実の不存在などがあります。
実体的審判不開始とは、審判に付するのが相当でないときであり、審判条件や非行事実の存在が認められ、審判を行うことは可能であるが、保護処分等を行うことは妥当ではなく、裁判官による直接審理の必要性もない場合のことをいいます。具体例としては、事案が軽微な場合などが考えられます。
2 不処分
(1)不処分とは
不処分とは、家庭裁判所が審判の結果、保護処分に付することができず、または保護処分に付する必要がないと認めるときに出す決定のことをいいます。つまり、不処分決定は、家庭裁判所が保護処分に付することができないと認めた場合になされるものと保護処分に付する必要がないと認めた場合になされるものの二つがあります。
(2)保護処分に付することができないときの不処分決定
法律上または事実上保護処分に付することが出来ない場合の不処分決定のことをいい、具体手的には以下のものがあります。
① 非行なし
非行事実の存在が認められない場合のことをいい、少年の行為が犯罪の構成要件に該当しない場合や、証拠上合理的な疑いを超える程度の心証に達しない場合があります。
② 所在不明
当該少年に心神喪失、死亡、所在不明、疾病、海外居住等の事情が生じた場合のことを指します。
③ 審判条件を欠く場合
審判が適法であるための条件を欠く場合をいいます。
(3)保護処分に付する必要がないときの不処分決定
事実上、当該少年事件に関して、少年を保護処分に付する必要がなく、児童福祉法上の措置及び刑事処分の必要もない場合になされるものであり、具体的には以下のものがあります。
① 保護的措置
調査や審判の中で少年に対する関係者の働きかけにより、当該少年が将来的に 再非行に至る可能性が減少した場合のことをいいます。 調査の過程における調査官からの説諭や観護措置が取られている場合には鑑別所内での処遇、そして付添人である弁護士からの指導も重要な関係者の働きかけといえます。
② 別件保護中であること
すでに別件の非行事実で保護的措置がなされている場合や、保護処分に付されている場合には、あえて本件でさらに処分をする必要性がないとして不処分になる場合があります。
③ 事案が軽微であること
非行事実が極めて機微な場合には、そもそも審判不開始決定がなされることが多いですが、審判を開始したうえで不処分決定がなされる場合もあります。
3 保護観察
(1)保護観察とは
保護観察処分とは、少年を少年院等の施設に収容することなく、社会の中で生活させながら保護観察所の指導監督及び補導援護という社会内処遇によって、少年の改善更生を図ることを目的として行う処分をいいます。
もっとも、保護観察中の行動によっては少年院等に送致されることもあるので注意が必要になります。
(2)保護観察期間
保護観察の期間は少年が原則20歳に達するまでですが、決定の時から少年が20歳に達するまででの期間が2年間に満たないときは2年とされています。
もっとも、少年の改善更生に資すると認めるときは期間を定めて保護観察を一時的に解除することができ、また保護観察を継続する必要がなくなったと認めるときには保護観察が解除されることになります。
解除の基準は、保護観察の種類によって異なりますので、次の(3)にて説明します。
(3)保護観察の種類
保護観察は以下の4つの種類に分類されます。
① 一般保護観察
一般保護観察は交通事件以外の事件により保護観察に付され、かつ短期保護観察相当の処遇勧告がなされていない少年を対象とするものです。保護観察時に少年ごとに作成される保護観察実施計画に従い、保護観察官や保護司による指導監督・補導援護が行われます。
② 一般短期保護観察
一般短期保護観察は交通事件以外の事件により保護観察に付され、かつ一般短期保護観察相当の処遇勧告がなされた少年を対象とするものです。
短期保護観察に付されてから約6か月から7か月以以内の期間が経過すれば解除が検討されるようになります。
③ 交通保護観察
交通保護観察は交通関係事件で保護観察に付され、かつ交通短期保護観察相当の処遇勧告がなされていない少年が対象となります。
少年事件のうち、無免許運転等の道路交通法違反、危険運転致死傷、過失運転致死傷などの法律違反は、交通関係事件というその事件の特性に応じた措置を講じる必要があります。そこで、交通保護観察では一般保護観察に準じた処遇だけでなく、必要に応じて交通法規、運転に関する指導などを行っていきます。
交通保護観察に付されてから約6か月経過後に解除が検討されるようになります。
④ 交通短期保護観察
交通短期保護観察は交通関係事件で保護観察に付され、かつ交通短期保護観察相当の処遇勧告がなされた少年が対象となります。
交通短期保護観察に付された場合には保護観察所において行われる保護観察官の交通講習等を集団で受け、毎月の生活状況を報告することになります。
交通短期保護観察に付されてから約3か月から4か月以内の期間が経過すれば解除が検討されるようになります。
(4)特定少年の場合の特例
特定少年(18歳以上の少年をいいます)を保護観察に付する場合、決定の際に6か月か2年か決めることになります。途中で解除されることもありません。保護観察期間が2年の場合は、特定保護観察処分少年といわれ、遵守事項に違反しその程度が重いと判断されれば、少年院に収容されることがあります。家庭裁判所は、この期間の保護観察処分に付するときに、少年院に収容することができる期間を定めなければなりません。
4 児童自立支援施設、児童養護施設
(1)児童自立支援施設とは
児童福祉法によれば、児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、または保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設のことをいいます。
「児童」とは18歳に満たない者のことをいいます。もっとも、入所中の児童は満20歳に達するまで在所を延長することができます。
児童自立支援施設に送致される少年の特徴としては、非行性が進んでいるはいえず、少年自身に問題があるというよりかは少年の家庭環境等に問題があることがあげられます。年齢制限もあることから、低年齢の少年が対象となることが多いです。
(2)児童養護施設
児童福祉法によれば、児童養護施設とは、保護者のない児童、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護し、あわせて退所した者に対する相談その他の自立のための援助を行うことを目的とする施設のことをいいます。
児童養護施設は虐待されている児童など要保護児童のための施設であることから、非行性のある少年の処遇を行うことは想定されておらず、児童養護施設に送致されることは少ないです。
5 少年院送致
(1)少年院送致
少年院法によれば、少年院は保護処分の執行を受ける者および少年院において懲役又は禁錮の刑の執行を受ける者に対して矯正教育その他の必要な処遇を行う施設のことをいいます。
(2)少年院の種類
① 第一種少年院
保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない概ね12歳以上23歳未満の者
② 第二種少年院
保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がない犯罪的傾向が進んだ、概ね16歳以上23歳未満の者
③ 第三種少年院
保護処分の執行を受ける者であって、心身に著しい障害がある概ね12歳以上26歳未満の者
④ 第四種少年院
少年院において刑の執行を受ける者
⑤ 第五種少年院
特定少年で2年間の期間を定められた保護観察処分を付され、少年院収容決定がされた者(本記事の「3 保護観察(4)特定少年の特例」の特定保護観察処分少年の場合になります。)
(3)収容期間
少年院法によれば、少年院に収容することが出来るのは原則20歳までであるが、少年院送致決定のあった日から1年を経過していないときは、その日から起算して1年間に限り収容を継続することが出来るとされています。
少年院の収容期間は平均約1年とされていますが、法務省の通達等で定められた矯正教育課程と家庭裁判所の判断によって以下のように異なります。
①特修短期処遇
収容期間は4か月以内で、非行傾向が進んでいない少年が収容されます。
②一般短期処遇
収容期間は原則として6か月以内で、少年自身の問題がさほど大きくなく、6か月以内の短期間における指導により、社会復帰ができる可能性が高い少年が収容されます。
③長期処遇
収容期間は原則として2年以内です。
長期処遇のうち比較的歓喜の処遇勧告の場合には8か月から10か月程度
期間についての処遇勧告がない場合には、1年程度
比較的長期の処遇勧告の場合には1年から2年以内
相当長期の処遇勧告の場合には2年を超える期間になります。
(4)少年院での生活
少年院における矯正教育の内容は以下の5分野に分類されています。
①生活指導
善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる知識及び生活態度を習得させるため必要な生活指導を行います。
②職業指導
勤労意欲を高め有用な知識及び技能を習得させるため必要な職業指導を行います。
③教科指導
義務教育を終了しない在院者その他の社会生活の基礎となる学力を欠くことにより改善更生及び円滑な社会復帰に支障があると認められる在院者に対して、学校教育法による学校教育の内容に準ずる教科指導を行います。学力の向上を図ることが円滑な社会復帰に特に資すると認められる在院者に対しても、その学力に応じた強化指導を行います。
④体育指導
善良な社会の一員として自立した生活を営むための基礎となる健全な心身を培わせるため必要な体育指導を行います。
⑤特別活動指導
情操を豊かにし、自主、自律及び協同の精神を養うことに資する社会貢献活動、野外活動、運動競技、音楽、演劇その他の活動の実施に関し必要な指導を行います。
6 試験観察
(1)試験観察とは
家庭裁判所は保護処分を決定するため必要があると認められるときは、決定をもっ て、相当の期間、少年を調査官の観察に付することが出来るとされており、これを試験 観察といいます。
(2)試験観察の種類
①在宅試験観察
裁判所から出された遵守事項を守りながら、帰住先で生活し定期的に調査官と面談し、指導・観察を受けることになります。
②補導委託
各家庭裁判所に登録されている補導委託先に少年を居住させ、定期的に調査官と面 談し、指導・観察を受けることになります。
(3)試験観察の期間
法律では試験観察の期間は「相当の期間」としか規定されていません。もっとも、実 務上は、3、4か月程度が平均であるとされていますが、事案によっては1年を超える 場合もあります。
7 検察官送致(逆送)
(1)逆送とは
家庭裁判所は、調査あるいは審判の結果、本人が20歳以上であることが判明したとき、および、死刑、懲役または禁錮に当たる罪の事件について、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分相当と認めるときには、事件を検察官に送致(送致)しなければなりません。
また、事件当時16歳以上の少年で、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件の場合であっても検察官に送致しなければならないとされています。もっとも、このような場合、「調査の結果、犯行の動機及び態様、犯行後の情況、少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」には検察官への逆送を行わないことができるとされています。
検察官は公訴提起するに足りる犯罪の嫌疑ある場合には、必ず起訴しなければならないことから、当該少年は成人と同じ刑事裁判を受けることになります。
(2)特定少年の場合の特例
18歳以上の少年である特定少年の場合は、家庭裁判所は、その罪の刑の重さに関わらず、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分相当と認めるときには、事件を検察官に送致しなければなりません。
また、事件当時16歳以上の少年で、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件の場合の他、事件当時特定少年で、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪の事件の場合も事件を検察官に送致しなければならないとされています。このような場合、「調査の結果、犯行の動機、態様及び結果、犯行後の情況、特定少年の性格、年齢、行状及び環境その他の事情を考慮し、刑事処分以外の措置を相当と認めるとき」には検察官への逆送を行わないことができるとされています。犯行の動機態様だけでなく、結果も考慮されることになります。
特定少年でない少年と同様、検察官は公訴提起するに足りる犯罪の嫌疑ある場合には、必ず起訴しなければなりません。この事件が18歳以上のときに犯したものであれば、推知報道の禁止(「氏名、年齢、職業、住居、容貌等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真を新聞紙その他の出版物に掲載してはならない」)は適用されず、氏名や顔写真など個人が特定される情報が報道される可能性があります。
第3 少年院と少年刑務所の違い
少年院とは、家庭裁判所から保護処分のうち少年院送致決定をなされた少年と懲役又は禁錮の言渡しを受けた16歳に満たない少年を16歳に達するまで収容する施設になります。少年院は少年の更生を図るために矯正教育を行っています。
少年刑務所とは、16歳以上20歳未満の受刑者を収容する刑務所のことを言います。少年刑務所は逆送の結果、刑事裁判が行われて実刑判決を受けた場合に収容される施設です。少年刑務所は、成人と同様に刑罰として刑務作業などを行っています。
第4 少年事件でお困りの方は
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