嫌がらせで物を隠すと窃盗罪?器物損壊罪?①
- 2020年5月11日
- コラム
嫌がらせで物を隠すと窃盗罪が成立するのか器物損壊罪が成立するのかということについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所千葉支部が解説します。
~事例~
千葉市若葉区にある会社Xで働いているAさんは、同僚であるVさんのことを激しく嫌っていました。
どうにかVさんを会社から追い出せないかと考えたAさんは、Vさんにこっそり嫌がらせを繰り返すことでVさんを追い出せないかと考えました。
そこでAさんは、嫌がらせ目的でVさんの使用している文房具や小物といった身の回りの物をこっそりと自分のロッカー内に隠すようになりました。
身の回りの物が頻繁になくなるようになったVさんは不審に思って会社に相談し、その結果、防犯カメラ等の映像から、AさんがVさんの身の回りの物を隠していることが発覚。
会社がAさん・Vさんと話したところ、Aさんは、Vさんが千葉県千葉東警察署に届け出ると言っていると聞きました。
Aさんは、自分の嫌がらせ行為が犯罪にあたるのか、犯罪にあたるとすれば何罪になるのか不安になり、刑事事件に強い弁護士に相談することにしました。
(※この事例はフィクションです。)
・物を隠す行為は犯罪になる?
嫌がらせ目的で物を隠すという行為は、一見軽いいたずらのようにも思え、犯罪が成立するイメージとは遠く感じるかもしれません。
しかし、実はそう簡単には済まない可能性もあるのです。
以下では、嫌がらせ目的で物を隠した場合に成立しうる犯罪について詳しく見ていきます。
・物を隠す行為は窃盗罪になる?
人の物を勝手に取ってしまうという行為から想像しやすいのは、やはり窃盗罪でしょう。
刑法235条
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
窃盗罪の「他人の財物を窃取」とは、簡単に言えば、他人の支配・管理下にある他人の物を、その人の意思に反して自分や第三者の支配・管理下に移すことを指します。
こう考えると、Aさんのように嫌がらせで人の物を勝手に隠す行為は窃盗罪にあたり、物を隠す行為に窃盗罪が成立しそうに見えます。
しかし、実は窃盗罪にはいわゆる「書かれざる構成要件要素」という、条文に明記されていない成立のための条件が存在します。
それが「不法領得の意思」と呼ばれる意思の有無です。
「不法領得の意思」とは、「権利者を排除し他人の物を自己の所有物と同様にその経済的用法に従いこれを使用し又は処分する意思」であるとされています(最判昭和26.7.13)。
このことから、「不法領得の意思」は「権利者排除意思」と「利用処分意思」の2つの意思が必要であると言われています。
簡単に言えば、その物の所有者の権利を排除しようという意思と、その物を利用・処分する意思があれば「不法領得の意思」があると考えられるということになるのです。
そして、窃盗罪の成立にはこの「不法領得の意思」があることが求められます。
では、なぜ窃盗罪の条文に書いていないにも関わらず、窃盗罪の成立にはこの「不法領得の意思」が必要なのでしょうか。
それは、「不法領得の意思」がなければ、窃盗罪として処罰されるべき行為と処罰されなくてよい行為、窃盗罪にあたる行為と他の犯罪にあたる行為の区別が付かなくなってしまうからなのです。
例えば、一時的に借りるだけのつもりで他人の物を勝手に借りたような、いわゆる「使用窃盗」は、被害が軽微であるということから原則的に不可罰とされています。
使用窃盗行為は、一時的に他人の物を使用するだけですから、使用窃盗行為をしている人はその物を所有している人の権利を排除しよう意思=「不法領得の意思」の内容のうち「権利者排除意思」はないことになります。
しかし、窃盗罪に「不法領得の意思」を構成するうちの「権利者排除意思」が必要ないとすれば、不可罰であるはずの使用窃盗行為にも窃盗罪が成立してしまうことになります。
一方、「不法領得の意思」の内容のうち「利用処分意思」が必要ないとすれば、窃盗罪と毀棄罪(例えば次回の記事で取り上げるの器物損壊罪等)の区別が付かなくなるとされています。
毀棄罪は物を損壊する犯罪ですが、その毀棄罪よりも窃盗罪は重い刑罰が定められています。
物を壊してしまうのですから、毀棄罪の方が法益侵害が大きいように見えますが、窃盗罪は盗んだ財物を利用しようという目的で行われることからより強い非難に値し、予防する必要があるとの考えからそのような刑罰の重さになっていると言われています。
こうしたことから、窃盗罪と毀棄罪の区別にはその物を利用しようという「利用処分意思」が必要であると言われているのです。
では、今回のAさんの事例を考えてみましょう。
今回のAさんは、あくまで嫌がらせ目的=Vさんを困らせようという目的でVさんの身の回りの物を隠しています。
つまり、Aさんにはこれまで見てきた「不法領得の意思」がないことになります。
そのため、Aさんには窃盗罪が成立しないと考えられるのです。
ただし、例えばAさんが「ついでだから」といった気持ちでVさんの物を自分の物として使用したり、Vさんの物を転売したりしていたような場合には、「不法領得の意思」が認められて窃盗罪が成立する可能性も考えられますから、窃盗罪成立の成否については事件の詳細な事情を弁護士に相談してみることが必要でしょう。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所千葉支部では、刑事事件専門の弁護士による初回無料法律相談を行っています。
自分の行為が窃盗罪にあたるのか他の犯罪にあたるのか、といったことは専門的な知識がなければ判断のつかないことです。
だからこそ、専門家である弁護士の話を聞くことが、今後の対策を取るにあたって効果的といえます。
0120-631-881ではいつでも初回無料法律相談のご予約が可能です。
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次回の記事では、器物損壊罪とAさんの事例で考えられる弁護活動について取りあげます。