無理心中で殺人未遂に
- 2020年5月14日
- コラム
無理心中をしようとして殺人未遂罪に問われてしまったケースについて、弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所千葉支部が解説します。
〜事例〜
千葉市稲毛区に住んでいるAさんは、生活に行き詰まったことから、息子であるVさん(3歳)と無理心中しようと決意しました。
そこで、AさんはVさんを連れて電車が来ると警報が鳴っている踏切に立ち入りました。
しかし、通行人がすぐに気付いて緊急停止ボタンを押したことから電車は停止し、AさんやVさん、電車の乗客は怪我もなく無事でした。
通行人が同時に千葉県千葉北警察署に通報もしていたことから、すぐに千葉県千葉北警察署の警察官が駆けつけ、Aさんから事情を聞いたところ、Vさんと無理心中をしようとしていたということが発覚。
Aさんは殺人未遂罪の容疑で逮捕されることとなってしまいました。
Aさんの親族は、ニュースでAさんが殺人未遂罪で逮捕されたということを知って驚き、すぐに刑事事件に強い弁護士に相談しました。
(※令和2年5月11日YAHOO!JAPANニュース配信記事を基にしたフィクションです。)
・無理心中から殺人未遂罪に
無理心中とは、死にたいと思っていない相手と無理矢理一緒に心中すること、つまり、相手を殺して自分も自殺するという行為を指します。
心中とは、本来相手も自分も死ぬことを望んで一緒に死ぬことを指しており、それを無理矢理行うことから無理心中と呼ばれているのです。
日本では、自殺行為自体が犯罪として処罰されることはありません。
この理由は、自殺自体は違法な行為であるが自殺するような状況では自殺した人を非難したり責任を問うたりすることはできないために処罰できないという考え方や、そもそも自殺は違法性がない、もしくは処罰するほど遺法性が大きくないという考え方に基づいて説明されています。
しかし、無理心中は相手が死にたいと思っていないにもかかわらずそれを無理矢理殺してしまうわけですから、殺人罪や殺人未遂罪に問われる行為となります。
刑法第199条
人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。
刑法第203条
第199条及び前条の罪の未遂は、罰する。
未遂罪は、その犯罪を実行に移したものの、何らかの事情でその犯罪の結果までたどり着かなかったというような場合に成立するものです。
未遂罪は全ての犯罪において成立するわけではなく、特別に「未遂罪は処罰する」という規定がなければ未遂罪として処罰されることはありません。
例えば今回のAさんの事件では、上記のように殺人罪には未遂罪の規定があるため、殺人未遂罪が問題になるということになります。
殺人未遂罪は、人を殺そうという殺意(刑事事件では殺人罪の「故意」と言います。)があり、殺人罪にあたる行為を実行に移した(刑事事件ではこれを「実行の着手」と呼びます。)にもかかわらず、「人を殺」すことに至らなかった場合に成立します。
殺人罪の実行の着手があったかどうかは、人が死亡する危険性のある行為を行ったかどうかということで判断されることになります。
今回のAさんは、Vさんと無理心中をしようとしており、Vさんを殺そうとしているわけですから、Vさんに対する殺人罪の故意はあったと言えるでしょう。
そして、AさんはVさんを連れて電車が来る踏切に侵入しています。
当然、電車が来てしまえばAさんとVさんは電車に轢かれてしまうことになりますから、これはVさんが死亡する危険性のある行為をしていることになります。
こうした故意と行為があったものの、Vさんは死亡するに至っていない=殺人罪の結果は発生していないことから、Aさんには殺人未遂罪が成立すると考えられるのです。
なお、もしも無理心中ではなく相手の同意のある殺人や心中であった場合には、単なる殺人罪ではなく同意殺人罪や嘱託殺人罪といった犯罪の成否が問題になります。
こういった場合、どの犯罪が成立するのかは被疑者・被告人自身や被害者の内心の事情も深くかかわってくることから、特に専門家である弁護士に相談し、取調べ対応などに対してサポートを受けることが望ましいでしょう。
殺人事件・殺人未遂事件は、人の命が関わることからもおわかりいただけるように、非常に重大な犯罪です。
だからこそ、刑事事件の専門家にご相談いただくことがおすすめです。
弁護士法人あいち刑事事件総合法律事務所千葉支部では、無理心中事件に関わる殺人事件・殺人未遂事件のご相談もお受けしています。
まずはお気軽にご相談ください。